大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所新城支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人鈴木さわを懲役壱年に

被告人河合久平を懲役拾月に

各処する。

被告人両名に対しいずれも本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は名古屋地方裁判所執行吏秦貞雄が昭和三十三年十一月十四日片桐正男の代理人弁護士白石信明の委任を受け、同裁判所新城支部同年(ヨ)第八号仮処分決定正本に基き北設楽郡東栄町大字三輪字横見十五番地の五山林において、同所に存する伐木約二百十石及び素材約三百四十石合計約五百五十石につき被告人鈴木さわの搬出、売却を禁止し執行吏の占有保管に移す旨の仮処分をなし、同地上にその公示札を立てて右仮処分の事実を標示したことを知りなから共謀の上同月十六日頃から同月二十六日頃までの間ほしいままに森谷松二をして右差押にかかる素材約二百石を搬出させ、もつて差押の標示を無効ならしめたものである。

(証拠)(省略)

弁護人主張の要旨は、本件仮処分物件は仮処分執行前たる昭和三十一年八月二十八日被告人鈴木さわより被告人河合久平に譲渡され更に昭和三十三年九月二十日山本広士外三名に百六十万円で譲渡契約をなし右買受人山本広士等は買受立木の所有権の存在を明確にするため伐採木並に立木に中と墨印し伐採搬出していたものである。然るにその伐採中に被告人さわに対する仮処分決定により本件仮処分の執行をなしたものである。仮処分の執行にあたり執行吏は目的物件の占有状態を調査する義務があり仮処分決定があるからといつてこれが調査することなく漫然仮処分の執行をしたとすれば明らかに第三者の権利を侵害するもので基本的人権を侵害した行為である。また本件仮処分執行につき立会人となつた伊藤一治および片桐昭一は執行吏が同行した者で、いずれも事件の関与者と推定すべき情況にあつたものである。すなわち片桐昭一は仮処分申請人の長男であり。伊藤一治は仮処分の本案訴訟の基本となつている売渡行為につき被告人鈴木さわの印章を盗用して契約をした者で、受領した金員全部も同人が着服費消したもので右鈴木さわの関知せざるところである。執行吏が同人等の言のみで右鈴木さわの占有と認定した如きは軽卒も甚だしいものであるのみならず執行吏の執行等手続規則第十五条の執行吏は事件に関係ある者を証人として執行行為に立会わせてはならないとの規定に違反する執行行為である。右のとおり第三者の占有と是認さるべき明確な墨印の事実を無視し立会人たる資格なき者の立会によつて第三者の権利を侵害する執行行為は効力を生じないものである。従つて本件仮処分は法律上有効な仮処分の執行でない以上たとえ権利者が自力行為をしたとしても封印破棄罪は成立しないものであるというにある。

しかしたとえ仮処分の目的たる物件が第三者の占有にかかるものとしても、執行吏がその物件を仮処分決定の被申請人の占有にかかるものと判定してなしたる執行手続は適法に取消がなされない限り法律上当然その効力を有するものであつて、仮処分物件につき権利を主張する者は執行異議の申立によりその取消を求むべきであり、また執行吏の遵守すべき手続に関しては執行方法に関する異議の申立により救済を求めるべきであつて、自救行為の如きは到底許容さるべきものではない。本件は前判示のとおり被告人両名は伐木及び素材を執行吏の占有保管に移す旨の仮処分の執行がなされその公示札を立てて右仮処分の事実の標示されたことを知悉しながら共謀の上ほしいままに素材約二百石を搬出したものなることが明らかであるからその所為は封印破棄罪に該当すること勿論である。弁護人の主張は理由がなく採用し得ない。

(法令の適用)

被告人両名の判示所為は刑法第九十六条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に該当するのでいずれも所定刑中懲役刑を選択の上被告人鈴木さわを懲役壱年に、被告人河合久平を懲役拾月に処するとともに被告人両名に対し情状により刑法第二十五条第一項を適用し、いずれも本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予するものとし、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条により訴訟費用は被告人両名に連帯してこれを負担させることとし、主文のとおり判決する。(昭和三四年九月三日名古屋地方裁判所新城支部)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!